春菜は勇気を振り絞って、この旅館から追い出されてしまうのが怖かったということを純一に伝えた。


「そんな、追い出すだなんて」


今まで険しい表情をしていた純一は一気に眉を下げて泣き出してしまいそうな顔になった。


「そんなことは絶対にしません。そんなことをするくらいなら、最初から無理矢理にでも警察に連れて行っています」


「そうですよね。ごめんなさい」


純一の優しさは身にしみてわかっていたはずななのに、どうして信じることができなかったんだろう。


自分が情けなくて下唇を噛み締めた。


と、その時純一の手が春菜の背中に回って引き寄せられた。


いつの間にか皐月は吉田旅館へ戻っていて、裏口には春菜と純一の姿しかなかった。


「純一さん……?」


「こんな可愛いい子を追い出すわけがないでしょう」


きつく抱きしめられて耳元で囁かれる。


春菜は純一のぬくもりを感じながら心臓が早鐘を打つのを感じていた。


自分も純一の背中に両手を回したいが、緊張と幸福がないまぜになって動くことができない。