京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。

「記憶を取り戻すためにはやっぱり純一にもちゃんと話さなきゃ」


「そうですよね……」


「もしそれで旅館から追い出されそうになったらさ、吉田旅館で働きなよ。うちではちゃんと社員として雇うから泣き言はいわせないけどね」


皐月はそう言うとウインクしてみせた。


その優しさに涙が出そうになる。


純一も皐月も、そして飯田医師もどうしてこんなに優しいんだろう。


「ありがとうございます」


「お礼は実際に働くことになってからでいいよ。純一もさぁ、そろそろ結婚して落ち着けばいいのにって思ってるんだけどね」


「そうなんですか?」


純一と皐月が付き合っていないとなると、他にそれっぽい女性の影はないように感じられる。


だけど純一ももう30代前半だろうから、適齢期かもしれない。


「うん。純一はずーっと旅館一筋で全然女っ気がないからね。春菜ちゃんみたいな子がお嫁さんになってくれたら、純一の両親も安心かもね?」


「ちゃ、茶化さないでくださいよ」


皐月の言葉にまだ自分の顔が真っ赤になっていくのを感じるた。