京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。

☆☆☆

皐月が春菜を連れてきたのは茅葺屋根の一軒家だった。


その入口にはカフェの看板が出ている。


「ここ、カフェなんですね」


「そうだよ。雑誌や新聞でも取り上げられて結構人気なんだよね」


店内はごく普通のカフェになっていて落ち着いた色合いで統一されている。


焦げ茶色の一枚板のテーブルの上にはランプが灯されていてとてもオシャレな雰囲気だ。


「抹茶のフレンチトーストまだある?」


皐月はこのお店の店主とも仲がいいようで、カウンターの奥へ向けてそう声をかけている。


「皐月ちゃんこんにちは、まだあるよ」


「それじゃ2つほしいんだけど、いい?」


「もちろん。少し待ってて」


カウンター越しの注文が終わると中央の大きなテーブルに落ち着いた。


「それで、記憶はどうよ?」


座ると同時くらいにそう質問された春菜は面食らってしまった。


皐月は他人との間に壁を作らないタイプのようで、こんな繊細な質問でも容赦ないようだ。


純一の恋人でもあるし失礼があってはいけないと考えた春菜は正直に話すことにした。


「まだあまり思い出していません。でも、少しだけ思い出したこともあるんです」


「へぇ、どんなこと?」