京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。

「大丈夫だよ。私になにか言ったって、誰かにバラしたりしないから」


春菜の懸念を感じ取ったように先回りしてそう言われてしまった。


用事が終わった皐月はなぜだか春菜のことをジロジロと見てきて、帰ろうとしない。


なにか変だろうか?


着物が崩れているとか?


そう思って自分の姿を見下ろした時、皐月に腕を掴まれていた。


「ねぇ、これから少しお茶しない? いい喫茶店知ってるんだ」


「え、でもまだ仕事中ですから」


「大丈夫大丈夫。私が連れ出したって言えば、誰も文句は言わないから」


「でも」


まだ渋っている春菜の手を強引に引いてあるき出す皐月。


春菜は慌ててその後を追いかけたのだった。