京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。

☆☆☆

嵐山駅から三宮までは1時間30分ほどの旅になる。


隣の県まで移動するというと随分時間がかかるように感じられるけれど、実際はそれほど遠くない。


今日は遠出ということで、純一はTシャツにジーンズという姿で、いつもと違う雰囲気に胸が高鳴ってしまう。


「どうして三宮なんですか?」


電車に揺られながら質問すると、純一は少し恥ずかしそうに笑って「三宮は漫画やアニメの聖地だって知っていますか?」と聞かれた。


どこかで聞いたことのある情報だったので頷いた。


「最近、漫画界では旅館を舞台にした作品が増えているんです。1度試しに読んでみたらハマってしまって、今ではどっぷり浸かってしまいました」


そう言って照れ笑いをして頭をかく純一。


それは純一の新な一面で見ていてどきどきした。


「どんな漫画があるんですか?」


質問すると、その後の純一はマシンガントトークだった。


「旅館について詳細に書かれている漫画は『旅館バトル』ですかね。ほら、僕と皐月みたいなライバル旅館がお客様をめぐってバトルをするお話です。少し異色なストーリーで言うと、『幽霊旅館』です。こっちはすでに廃墟になっている旅館に幽霊たちがあつまって、旅館を再建させるお話で――」