京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。

☆☆☆

明日も仕事なのに布団に入って目を閉じたら純一と皐月の顔を思い出して、想像通り寝付けない夜になってしまった。


こんなことじゃまた仕事でミスをしてしまう。


そんなにミスを連発していれば、いずれ純一からクビを言い渡されてしまうかもしれない。


そう思うと更に眠れなくなって、気がつけば窓から朝日が差込始めていた。


「結局一睡もできなかった」


鏡で自分の顔を確認してみるとひどい有様で、ファンデーションでこのクマがちゃんと隠れるだろうかと心配になった。


まだ早い時間だけれど、部屋でごろごろしていると余計なことばかり考えてしまう。


着替えて掃除の準備をしよう。


そう思って襖を開けたとき、逆側の襖がノックされた。


「はい」


こんな時間に誰だろうと開けてみると、そこには純一が立っていた。


「どうしたんですか、こんな時間に」


「ごめんなさい。実は昨日言い忘れていたことがあるんですよ」


言い忘れていたこと?


なんだろうと首をかしげると、純一から今日は休みだと言われた。


そう言えばもう5日間ほど働いた気がする。


春菜は今日から2連休なのだ。


純一はそれをすっかり言い忘れていたようだ。


他の従業員の人にはシフトが渡されているが、特例の春菜にはそれがない。


いつ記憶が戻るかわからなから仕事にしばりつけることはできないと、純一が気をつかってくれているのだ。