☆☆☆
旅館に戻ってラジウム温泉に入り、自分の部屋へ向かう途中。
すでに電気が落とされて薄暗い常夜灯に照らされた廊下の向こうから、見知った顔が歩いてくるのが見えた。
白いブラウスにタイトなスカート姿はOLっぽく見えるけれど、あれはヒロミだ。
ヒロミもこちらに気がついて軽く微笑んできた。
「ちょっと忘れ物を取りに来たの」
ヒロミの右手にはスマホが握りしめられている。
従業員服を着ていないヒロミを見るのは新鮮で、なんだか別人みたいだ。
「そうなんですか」
「さっき、皐月さんが来てたわね。なんだったの?」
「イチゴをいただいていました」
さっきひとつ食べさせてもらったイチゴの濃厚な甘さを思い出す。
酸味が少ない品種のようで口いっぱいに果汁が広がった。
明日の朝の御膳にでも添えられるのかもしれない。
「そう。あの方、いつもうちにおすそ分けをしてくれるの。若旦那と仲がいいでしょう」
「はい。純一さんもくだけた話し方になっていました」
「あの2人幼馴染なの。もう1人いるけれど、あの人は診療所の先生になってるからちょっと別ね」
春菜は飯田医師のことを思い出していた。
メガネをかけたインテリ系のイケメンだった。
「皐月さんは若旦那の恋人なのよ」
「えっ」
ヒロミの言葉に春菜は大きく息を飲み込んだ。
さっきの雰囲気を思い出すとそれも不思議ではなさそうに感じられる。
だけど2人は別の旅館の若旦那と若女将だ。
旅館に戻ってラジウム温泉に入り、自分の部屋へ向かう途中。
すでに電気が落とされて薄暗い常夜灯に照らされた廊下の向こうから、見知った顔が歩いてくるのが見えた。
白いブラウスにタイトなスカート姿はOLっぽく見えるけれど、あれはヒロミだ。
ヒロミもこちらに気がついて軽く微笑んできた。
「ちょっと忘れ物を取りに来たの」
ヒロミの右手にはスマホが握りしめられている。
従業員服を着ていないヒロミを見るのは新鮮で、なんだか別人みたいだ。
「そうなんですか」
「さっき、皐月さんが来てたわね。なんだったの?」
「イチゴをいただいていました」
さっきひとつ食べさせてもらったイチゴの濃厚な甘さを思い出す。
酸味が少ない品種のようで口いっぱいに果汁が広がった。
明日の朝の御膳にでも添えられるのかもしれない。
「そう。あの方、いつもうちにおすそ分けをしてくれるの。若旦那と仲がいいでしょう」
「はい。純一さんもくだけた話し方になっていました」
「あの2人幼馴染なの。もう1人いるけれど、あの人は診療所の先生になってるからちょっと別ね」
春菜は飯田医師のことを思い出していた。
メガネをかけたインテリ系のイケメンだった。
「皐月さんは若旦那の恋人なのよ」
「えっ」
ヒロミの言葉に春菜は大きく息を飲み込んだ。
さっきの雰囲気を思い出すとそれも不思議ではなさそうに感じられる。
だけど2人は別の旅館の若旦那と若女将だ。