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「せっかくご馳走になったのに思い出すことがなくてすみません」


旅館へ戻るとすでに夜勤の従業員以外の姿はなく、2人は事務所にいた。


街を歩いてどうだったと質問されても春菜はなにも思い出せたものがなかった。


「そうですか。でもラーメンは美味しかったでしょう?」


「はい、とても」


笑顔で頷いたとき、純一の手のひらが頭に乗せられた。


そのぬくもりと感触に心臓がドキリと跳ねる。


「それなら今日は100点ですね。仕事もしっかりしてくださっているし、こっちはおお助かりです」


「そんな、私なんてなにも」


まだ乗せられたままの大きな手に心臓はばくばくと高鳴っていて、純一の顔をしっかりみつこともできなくなる。


「明日もまたお願いしますね」


「はい」


純一は春菜の頭を優しくなでたのだった。