「ご、ごめんなさい」


あまりに盛大なお腹の音に顔が熱くなり、うつむく。


隣の純一が声を上げて笑い「この匂い、とってもいいでしょう? 僕もこの匂いをかぐとどうしても食べたくなって我慢できなくなるんです」と言った。


そうしている内に麺が丼に入れられて、春菜の前に差し出された。


醤油のいい香りが鼻をくすぐり、食欲を掻き立てられる。


割り箸を割るとパチンッといい音がして、2人で同時に「いただきます」と、手を合わせた。


先にスープをレンゲにすくって一口飲んでみると、醤油の旨味と油の旨味が絡み合ってマッチする。


ストレート麺を割り箸で上げてみるとそれは美女の金髪のように輝いている。


綺麗。


と、思わず口に出してしまう前に麺をすすり上げて噛むと弾力があり少しだけ跳ね返され、かと思えばちぎれて口の中に広がっていく。


マツさんの料理も絶品だけれど、このラーメンも負けてはいない。


一気に半分くらい食べきってようやく一口水を飲む。


よく冷えた水が熱くなった口の中を冷やしてくれてサッパリとする。


だけどその後すぐにまた麺をすすった。


一度リセットされた口の中にまた醤油と油の旨味が広がって、一層美味しさを感じる。


「いやぁ、ここまで食べてくれるなんて嬉しいねぇ」


スープまですべて完食した丼をみて店主は嬉しそうに目尻にシワを寄せる。


「今日も美味しかったです。また来ますね」


お代を支払い、屋台を後にする。


「これが京都の夜鳴きそばです。どうでしたか?」


その質問にお腹がいっぱいの春菜は大きく頷いて「最高でした!」と、答えたのだった。