そう言われ、少しきつめに帯を閉められたときにようやく自分が責められているのだと気がついた。


「松尾旅館の若旦那に近づいて、妻の座を狙ってるんでしょう?」


「そ、そんなことないです!」


慌てて否定したが、鏡越しに見えるヒロミの顔は険しい。


「嘘ばっかり。若旦那はあの通り優しい性格で、この旅館の跡取りで、見た目もいい。狙っている子なんて山のようにいるんだから」


「でも、私は本当に――」


「さ、着付けはできたからさっさと仕事しなさいよ」


ヒロミは春菜の言葉を最後まで聞かず、さっさと部屋を出ていってしまったのだった。