「改めまして、今日から正式にうちで働いてもらうことになった高橋春菜さんです」


純一に紹介預かった春菜は見慣れた面々を見つめて「よろしくお願いいたします」と、頭を下げた。


ヒロミに美絵にマツさん。


それに今日はなぜだか皐月さんと飯田医師の顔もあった。


春菜が正式に松尾旅館で働くことになったと聞いて、駆けつけてきてくれたのだ。


ちなみに皐月さんの手には松尾旅館の布巾が握られていて、後でヒロミさんと美絵さんが怒られることが目に見えるようだった。


春菜は記憶が戻ったあとアパートを引き払い、荷物をすべて松尾旅館へと移動させていた。


そうなるとあの従業員用の6畳人前では狭くなり、今は松尾家が民家として使っている奥の部屋で一緒に生活をさせてもらうようになっていた。


純一は両親に春菜のことを婚約者だと紹介し直し、春菜もその覚悟があることを示した。


旅館の若女将になるなんて相当な覚悟が必要なことだが、松尾の両親は厳しくも優しい人で、まずは今までの通り働いて、その隙間でお稽古ごとなどを習うことになった。


ただ業務をこなすだけではない。


書道に華道に茶道、それに伝統的な舞いを覚えないといけない。


これから先数々の困難が待ち受けていることはわかっていた。


それでも、純一と2人なら頑張れる。