静かに襖がしまって純一と2人で取り残されてしまった。


春菜は布団の上に正座をして「本当に、ご迷惑をおかけしました」と、頭を下げた。


路地で倒れている女を見つけた時、純一はどれほど驚いただろうか。


救急車にも警察にも届けるなと言う春菜のわがままを聞いたとき、犯罪の片棒を担いだような気分になったかもしれない。


実際に、春菜が事件に巻き込まれたのではないかと考えたときだってあるだろう。


そう考えるとどれだけ謝っても謝り足りない。


すべて自分のせいだったのだから。


「それはもう大丈夫ですよ。本当に記憶が戻ってよかったです」


「ありがとうございます」


こんなときまで優しい純一に胸がチクリと痛む。


どうせなら少しくらい怒ってほしかった。


「ところで、春菜さんは無職のようですが、これからどうするつもりですか?」


その言葉に顔を上げた。


そういえばそうだった。


田島上司に辞表を突きつけてきてそのまま帰宅して、就職活動だってできていない。


「また仕事を探します」


それしか方法はない。


今は一刻も早くここを去らなければいけないという気持ちになっていた。


純一と離れるのは嫌だけれど、それは記憶をなくしていたからこそ言えたわがままだった。