京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。

☆☆☆

それから春菜は電車に揺られていた。


行き先は決めていない。


ただ下車したい駅があったらそこで降りて周囲を散策して、気になるお店に入って、疲れたら休んで。


そしてまた電車に乗る。


今日1日そんな風に自分勝手に過ごしてみると決めたのだ。


真っ黒なワンピース姿の春菜は電車内で少しだけ目立って、乗客からの視線を感じた。


でも気にしない。


なににもとらわれることのなくなった春菜はあらゆる駅で下車してとある街でお酒も飲んだ。


それはその街では有名な日本酒で、少し飲んだだけでほんのりといい気分になった。


『お姉ちゃん、良い飲みっぷりだねぇ』


酒屋のおじさんにそう言われて春菜は赤い顔で笑う。


『もう少し試飲するかい?』


そう言われたら断れない。


春菜はただの試飲だと思いつつも3杯も飲み比べをした。


それからまた電車に乗って、乗り継いで、宛もなく下車してみると、偶然その街もお酒で有名な場所だった。