京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。

願うなら、真っ白なウエディングドレスがいい。


そう思った瞬間元彼の顔を思い出して強く左右に首を振った。


せっかくいい気分になってきていたのに、元彼のことなんて思い出すのは最悪だ。


春菜は小さな財布を掴んで玄関へ向かった。


財布の中にあるのは1万円札とキャッシュカードと交通カードだけ。


それをワンピースのポケットに入れて、下駄箱から運動靴を出して履く。


この運動靴も働き始めてから最初に購入したものだった。


もう古くなっていてあまりはいていないのだけれど、こういう記念のものはなかなか捨てることができないでいる。


でも、これで最後だ。


ワンピースも運動靴も、前を向くために今日着るのだから。


『よーし、今日は飲むぞ!』


春菜は拳を突き上げて玄関を出たのだった。