京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。

さっきから春菜を被弾するばかりで必死で引き止めるような言葉は出てきていない。


しばらく田島に付き合って話を聞いていた春菜だが、だんだん馬鹿らしくなってきて無言で田島に一例すると部屋を後にしたのだった。


その後、みんなが制服に着替えて出勤する中、自分だけ私服に着替えてホテルから出るのは爽快だった。


今から自分は自由なんだ。


今日はなにをしてもいいんだ!


そう思うととたんに振られた悲しみとか、セクハラされた悔しさがすーっと消えていくのを感じる。


それでもまず最初に仕事用のスカーフとブラウスをクリーニング屋へ持っていったのは、完全には仕事モードが抜けきっていないからだろう。


春菜が使っていたスーツはいつも会社提携の業者に頼んでいるので、そのまま残してきた。


これから何度か会社に呼ばれて手続きをさせられるだろう。


それを思うと気が重たくなってきたが、すぐに切り替えてスキップしながらアパートへ向かう。


クローゼットを開けて鏡の前で様々な服を試着して行く。


今日から自分は生まれ変わるんだ。


それにふさわしい服を着たい。


あれでもないこれでもないと着せかえ人形みたいにくるくると衣装を変えて、ふと手にとったのは真っ黒なワンピースだった。


スーツのワンピースではなく、ふわりとして柔らかな素材のもので、肌触りがいい。


あのホテルで働き初めて、最初の給料で購入したものだった。