京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。

今の自分には少しの間休息が必要だ。


じゃないとまたミスをしてしまって、今度こそ田島からの誘いを断れなくなってしまうかもしれない。


だけど今日みたいな出来事があった後で田島が休息を許可してくれるとも思いにくい。


それならもういっそ、今の仕事なんてやめてしまおう。


ホテル業務は自分に合っていると思っていたけれど、仕方がない。


きっと他の仕事だってやってみればできるはずだ。


大学を卒業してからずっと今の仕事を続けていた春菜にとっては大冒険だ。


そして20分後、書き上がった辞表届けが春菜の前に置かれていた。


酔とショックのせいで文字はガタガタに歪んで、時々涙を落としたシミまでついている。


だけどそれを書き終えた春菜の心は晴れ晴れとしていて、そのまま横になって眠りに落ちたのだった。