「そういうのは黙ってもらっておけばいいんだよ。ほら、パスタはなににする?」
進藤先生はメニューを私に見せてくる。
このレストランは予約なしでも入れる、普通のレストランだ。あまり気取った感じじゃなくてホッとする。
「黙ってもらうなんて、美人しか許されません。あ、私この季節限定のやつにします」
「じゃあ俺は、ボロネーゼだ」
注文を終えた進藤先生は苦笑する。
「俺が婚約者にプレゼントをしたかったんだ。受け取ってくれるとうれしいんだが」
しまった。気を遣わせてしまった。
自分を卑下しちゃいけないって、前回決心したばかりなのに。
「う、うれしいんですよ、とっても。でもこういうの、慣れてないから」
「そうみたいだな。戸惑っているのが手に取るようにわかるよ。君は素直だから」
スープとサラダが先に運ばれてきた。
「でも、これからは覚悟してほしい。俺はとことん、君を甘やかすつもりだ」
「あわわ……」
食べ物が目の前にあるというのに、私としたことが、フォークをとる気にもならない。
「まず、お互いのことをよく知ろう。美味しいものを食べながら」
進藤先生がサラダに手をつけたので、私ものろのろとフォークを持った。



