「さ、乗って」
今の私にはまったく似合わない、高級車のドアを開けてくれる先生。
「私、こんな格好で来ちゃいました」
ドアの前で逡巡する私に、進藤先生は首を傾げた。
「ん? 別にいいんじゃないか? 通勤なんて、そんなものだろ」
……あ、そうでした。一度私服を見られているんだった。
あのときも、大した服を着てなかったっけ。いつも歩きやすさ重視だものね。
「でもあのときは人通りもなかったし、送ってもらうだけだったし」
このまま食事に行ったら、進藤先生が恥をかかないかな。
ぽっちゃりなだけじゃなく、オシャレでもない私を連れて歩きたいか?
進藤先生が口を開きかけたとき、誰かの靴の音が近づいてきた。
「このままだと、誰かに見られるな。外科のドクターじゃないといいけど」
「こ、困ります!」
「じゃあ乗って」
とりあえず、身を隠すために車に乗り込んだ。進藤先生も運転席に乗ってドアを閉める。
「シートベルト締めて」
「はいっ」
駐車場は一方通行なので、誰かの車が前を通過する恐れがある。先に出てしまえば目撃される可能性は低くなる。
私がシートベルトをすると、先生の車が発進した。



