耳元で聞こえたのは、進藤先生の声。
ゆっくり振り返ると、やはり先生がミトンのかごを持ってこちらを見下ろしていた。
「わわわ、先生。どうしてこんなところに」
まるで壁ドンされているみたいな距離。こんなところ、誰かに見られたら……。
「エコーを取りにきた」
すっと離れた進藤先生は、エコーの機械を指さす。
「誰か暴れたのか?」
ミトンを見て、進藤先生が訊ねる。
「いえ、自己抜針です。あちこち血だらけになっちゃって」
「そうか。一応診ておこう」
ミトンを持って機材庫を出ようとすると、エコーの機械をそのままに、先生は私についてくる。
「進藤先生の患者さんじゃないですよ?」
「そんなの、関係ないだろう」
いつもの冷静なドクターの顔で進藤先生は言った。私は素直に感動する。
他のドクターは、担当患者以外のことは知らんぷりだ。よほどの緊急事態でない限り、目の前で患者がベッドから転落しようが自己抜針しようが、華麗にスルー。
なのに進藤先生は、頼まれてもいないのに自分から患者さんの部屋に赴き、状態を見てくれる。



