出血が大したことないのを確認してから、担当の看護師を呼んだ。ひとつ先輩の看護師は、部屋の惨状を見るなり、大きなため息を吐いた。
「あーあ、やっちゃった。仕方ないね。家に帰りたかったんだよね」
患者さんはしきりに「家に帰してください」と繰り返す。看護師の指示を理解できないので、仕方なく手にミトンをつけさせることにした。
ミトンは甲の部分に板が入っており、指を使うことができない。それを装着すれば、ひとまず大丈夫だろう。
「私、ミトン取ってきますね」
目を離すと危ないので、先輩には患者さんの近くにいてもらうことにした。
私は病棟の機材庫に走り、ミトンを一組取ろうとしたが……。
「あれっ、どうしてあんなに高いところに?」
棚の一番上にミトンの入ったかごが見えた。背の高い中尾主任が置いたのだろうか。
私はぽっちゃりのせいで大きく見られるけど、背は低い。
かかとを上げて背伸びし、いっぱいに手を伸ばしても届かない。
あきらめかけたとき、背後から誰かの手が伸びた。
「これか?」
ふわりと後ろから抱きしめられているようで、息が止まりそうになった。