「どうしてって、そりゃあ。大事な婚約者を家まで送り届けるためだ」
私の手を引き、スタスタと歩きだす進藤先生。ぼんやりしていた私は、引きずられるようにして彼についていった。
駐車場に停まっていたのは、黒塗りの高級車だった。
いかにもドクターらしい。
「乗って」
ごく自然な動作で助手席のドアを開けてくれたので、私は素直に従う。
だって、仕事で疲れているんだもん。正直、徒歩と地下鉄より、自動車に乗っているだけの方が楽。
それに、せっかくこうして来てくれたんだし。夜のひとり歩き、怖いし。
色々な理由をつけ、私は進藤先生の車に乗り込んだ。革張りのシートは私の体に合わせて変形したかのような、包み込まれるような乗り心地だった。
男性の車に乗せてもらうのも初めてなら、こんな高級車も初めて。快適すぎる乗り心地に、仕事の疲れも癒されるようだ。
住所を告げると、先生はそれをカーナビに入力した。
病院の駐車場には、まだちらほらと車が停まっている。当直のドクター、夜勤の看護師、救急外来に来た患者などの車だろう。



