深夜零時、夜勤の看護師と交代して勤務を終えた。
遅番は少しでも残業すると終電に間に合わなくなるので、いつも必死だ。
さっさと私服に着替え、職員用出入口から外に出る。いつも街灯の明かりを頼りに地下鉄の駅まで歩くのだけど、これが結構怖い。夜勤で出勤するときもそうだ。
本当は車があるといいのだけど、なにぶんお金がかかるので、まだ買う決心がつかない。
同じ時間帯に退勤する職員がいないかきょろきょろしてみたけど、人が見あたらない。
仕方なくひとりきりで歩きだしたときだった。
「お疲れ」
低い声に驚き、心臓が止まりそうになった。
反射的に振り向くと、職員用出入口の脇に、進藤先生が立っていた。
「いつも歩いて帰るのか?」
街灯の下を歩いてくる進藤先生は、私服だった。
白衣のときより若く、親しみやすく見えるから不思議だ。
「ええ、すぐそこの駅まで」
「すぐそこといっても、十分はかかるだろう」
「そうなんです。もたもたしてると、終電逃しちゃうんです」
というわけで、お疲れ様です。
私はその場から逃げるように、先生に背を向けて走り去ろうとした。しかし。



