「また連絡する」
誰かの足音が聞こえてきて、進藤先生は手を放した。私はうなずき、その場から離れた。
急いでいるはずなのに、私の体はドタドタと大きな音を立てるばかりで、ちっとも前に進まない。
おむつ交換のカートに追いつき、エプロンをつけようとしたら、近くの大部屋から看護師が三人出てきた。
「あ、千紗さん。今終わったところです」
どうやら今日は、スムーズに業務が回っているらしい。
「そっか。私、遅かったね」
「いいえ。それより、どうしたんですか? 顔が赤いみたい」
藤井さんの小さくてかわいい顔にのぞきこまれ、どくんと心臓が跳ねた。
まだ指先に進藤先生の体温が残っている。
「イケメンって……ずるいよね」
「なんですか、それ」
余韻に浸ってぽつりと零れたセリフに、藤井さんが首を傾げた。
「私、ちょっとダイエットでもしようかな」
カートを片付け、手を洗いながら言うと、近くで手袋を補充していた藤井さんが振り向いた。
「どうしたんですか、千紗さん? そんなこと聞いたの初めてです」
「いや、健康のためにさ。ちょっと走ってすぐ息切れしてたら、看護師として成り立たないかなって」



