「高場千紗さん。俺の婚約者になってくれませんか」

 熱のこもった声。曇りのない澄んだ瞳に私が映っている。

「えっ」

 驚きのあまり、頭のなかが真っ白になった。

 進藤先生、今なんて言ったの。

 婚約者になる? 結婚を前提に付き合うみたいな話ならまだしも。

「か、からかわないでください。先生なら、もっとふさわしいお相手がたくさんいるでしょう?」

 返事をする声が震えた。

「からかってなどいない」

 進藤先生は、ちょっとムッとしたようだった。

 真っ直ぐに私を見つめてくる彼の目に、嘘はないように見える。

 いやでも、この完全無欠な男性が、ごく平凡で、しかもぽっちゃりな私を選ぶはずがない。

「俺は君に興味がある」

 まるで観察対象を見るように凝視され、落ち着かなくなる。

「ど、どうして。もしかして、先生ってぽっちゃり好きなんですか?」

 世の中にはいろんな趣味の人がいるものね。

「どうしてそうなる。俺は君の人となりに興味があるんだ」

「ええ?」

 進藤先生は相変わらず、私をじっと見つめている。見られすぎて穴が開きそう。

「君も看護師なら知っているだろう。世の中には実に様々な人間がいる。俺はその中でも、裏表の激しい人間が嫌いだ」