病院で見かける進藤先生はいつも仏頂面というか不愛想で、こんなふうに目を細くして笑わない。
なんだあ。病院でも、もっと笑えばいいのに。
私は箸を止め、進藤先生のレアな笑顔に見入っていた。
「ん? どうした。まだあるじゃないか」
進藤先生が私の視線に気づいたのか、笑いながらこちらに料理を食べるようにすすめてきた。
「千紗さん、もっと食べて。私の分もどうぞっ」
今まで苦々しい顔をしていた先生のお母さんが、突然自分のお皿をこちらに押し出してきた。
な、なにごと? いくら私でも、他人の分まではいらないよ?
「佑さんがこんなに笑ったのを久しぶりに見たわ。もっとお食べなさい。追加注文はいかが?」
「ええっ。だ、大丈夫です、さすがに」
私がいくら食いしん坊だろうと、追加はいらない。もともと成人女性がひとりで食べるには多すぎるくらいのボリュームがある。
「母さん、無理を言わないでください。たしかに気持ちのいい食べっぷりですけど」
ごり押ししてくるお母さんを、進藤先生が止めてくれた。まだ笑顔を保っている。



