その刹那、息が止まりそうになった。

 なんと、目の前にいたのは進藤先生だったのだ。

「ああっ!」

「……まさか君が代理だとは」

 進藤先生も驚いたようで、目をぱちくりさせている。

 着ているのはもちろん、白衣ではなくスーツだ。ツイード素材のネイビーのスーツに、白いシャツ。グレーのネクタイをつけ、おでこが見えるように前髪をセットしている。

 いつもの先生とは別人みたい。思わず見惚れてしまう。

(たすく)さん、ご存じなの?」

 隣にいるお母さんらしき人に顔をのぞきこまれた先生は、咳ばらいをして答えた。

 そういえば、病棟の誰かが、進藤先生は国内屈指の大病院、「進藤記念病院」の院長の息子とか言っていたような気がする。いつかはそちらの病院を継ぐのだろうという噂も聞いた。

 しかしまさか、茉莉ちゃんのお見合い相手が進藤先生とは夢にも思わなかった。

「同じ病院に勤める看護師の高場さん」

「もしかして、外科の看護師さん?」

「ええ。先日、処置の補助に入ってもらいましたが、なかなか手際がよかった。患者さんの評判もいい」

 私が勤める病院はいくつもの科がある総合病院で、一番優秀な看護師が集まるのが外科だと言われている。