ほとんど口論になった私たちを、通りかかった看護師がチラチラ見ていく。

 それまで黙って見ていた患者さんが「そうだ、ひどいよ」と声を飛ばした。いつも廊下を散歩していて、気さくに声をかけてくれる患者さんだ。

 真っ赤になって黙る原研修医。

「患者さんの迷惑になります。お静かに」

 もう言いたいことはない。

 ぷいっと顔を背けてナースステーションに戻る。原研修医は追いかけてこなかったし、なにも言い返してこなかった。

 カートを所定の位置に戻し、パソコンの充電コードをコンセントに差した途端、わっと病棟看護師たちと谷口さんが寄ってきた。

「千紗さん、かっこよかった!」

「素晴らしかったです!」

「え? なに?」

 みんなに囲まれ、私は戸惑う。

「あー、スッキリした!」

 どうやら、ここにいる人たちは原研修医に不満があったらしい。

 彼はお気に入りの看護師しか大事にしないものね。しかもお気に入りにはセクハラまがいの言動が絶えないという。

「みなさん。仕事に戻りなさい」