それでも、嫌なことばかりじゃない。頑張っただけお給料はもらえるし、キャリアアップもできる。
なにより、患者さんが元気になって退院していくのが一番うれしい。そのときは疲れも飛んでいくような気がする。
「はい。今日もよろしくお願いします」
藤井さんは気持ちを切り替えたようで、にこりと人懐っこい笑顔を見せた。
いつも通り仕事を進めていると、午前中に栄養士の谷口さんが現れた。
「あ、主任。さっきお電話をいただいた件なんですけど」
谷口さんは主任をつかまえ、経管栄養が必要な患者さんについてあれこれ相談している。
その後、数人の看護師がかわるがわる彼女に食事や栄養の相談に訪れた。私はそれを横目で見ながら、自分の仕事をする。
そのうち谷口さんは、患者さんの病室へ向かった。患者自身の食事の状況を聞き取りするためだ。ここで「昼だけ麺にしてほしい」とか、「牛乳は飲めないからヨーグルト飲料にしてほしい」とか、様々な要望を聞き、調理担当に指示を出す。大変な仕事だ。
私は狩りをする肉食獣のように、じっと機会をうかがっていた。
受け持ち患者の部屋を回っていると、ついに向かいの病室から出てきた谷口さんを発見した。



