「行ってらっしゃい」
「い、行ってきます」
私はそーっと進藤さんの車から降り、周囲を警戒しつつ足早に非常階段へ急いだ。
同棲を始めたので、共に日勤の日は一緒に通勤することにしたのだ。今日はその初日。
駐車場で一緒の車から出るのを見られたら一大事なので、私が先に降りることにした。
進藤さんは周りにカミングアウトしてもかまわないと言うが、私はそうはいかない。
女の嫉妬は怖いのだ。早くに結婚した呼吸器内科の同期が、『まだ結婚していない先輩から嫌味を言われた』と話していたことがある。
相手がドクター、よりによって進藤さんだと知られた日には、どうなることやら。
少し前ま病院では不愛想で人気がなかった進藤さんだけど、この前ドクターコールで駆けつけてくれた一件で、「あのときはかっこよかった」と、好感度が爆上がりしてしまったのだ。
無事に誰にも見つかることなく病棟に到着し、ふうと息を吐く。今日も一日頑張ろう。
「あれ、千紗さんちょっと元気になりました?」
先に来ていた藤井さんが声をかけてきた。
「うん。ゆっくり休んだら元気になったよ」



