それから数週間の日々は、飛ぶように過ぎた。
婚姻届の提出や景光さんの御実家との顔合わせ、景光さんの家への本格的な引っ越し、それから出産の準備、――――こんなもの、数週間のうちにやるものじゃない。それらに付随する面倒な手続きや調整は全て景光さんがやってくれたけれど、それはそれで申し訳なくて、私はすっかり疲れ果ててしまっていた。
とはいえ、景光さんの元を離れていた数ヶ月よりもずっと心穏やかでいられる、幸せな日々だったことは間違いない。景光さんのご両親は『この朴念仁が自分で嫁を見繕ってくるとは』なんて言って驚いていたけれど、思っていたよりもずっと温かく迎え入れてくれて、お義母様に至っては『嫌気が差したらこちらに逃げていらっしゃい』とまで言ってくれた。記憶の中にいる私の母に少しだけ似た、柔らかい印象の人だった。
私の実家のほうは事後報告にはなってしまうものの、出産後に二人で付き合い方を考えようと景光さんに言ってもらえたので、それに甘えるつもりだ。
「……よし、」
これで掃除は終わり。洗濯機が回り終わるまでは休憩時間だ。
お腹に気をつけながらゆっくりとソファーに腰を下ろし、スマホのカレンダーを開く。今日の日付のところに、赤い文字で『予定日』と書かれているのが見えて、思わずお腹を撫でながら溜息を零した。
「いつ会えるんだろうね……」
予定日はずれるもの、とあの産婦人科の先生に口を酸っぱくして言われているので、あまり気にし過ぎないようにはしているものの、流石に予定日の当日ともなると気になってしまう。
そういえば、景光さんも今朝は妙にそわそわしてたっけ。夕方に大事な会議がなかったら、休んで私の傍についているぐらいのことはしたかもしれないな、――――なんて思って、この十月十日の間に私も随分彼に気安くなったなと笑ってしまった。
そのとき、洗面所のほうから聞こえていた微かな音が止み、代わりに甲高い電子音が鳴り響く。洗濯が終わった音だ、と立ち上がろうとして、――――びしゃりと、下腹部が濡れる感覚がした。
婚姻届の提出や景光さんの御実家との顔合わせ、景光さんの家への本格的な引っ越し、それから出産の準備、――――こんなもの、数週間のうちにやるものじゃない。それらに付随する面倒な手続きや調整は全て景光さんがやってくれたけれど、それはそれで申し訳なくて、私はすっかり疲れ果ててしまっていた。
とはいえ、景光さんの元を離れていた数ヶ月よりもずっと心穏やかでいられる、幸せな日々だったことは間違いない。景光さんのご両親は『この朴念仁が自分で嫁を見繕ってくるとは』なんて言って驚いていたけれど、思っていたよりもずっと温かく迎え入れてくれて、お義母様に至っては『嫌気が差したらこちらに逃げていらっしゃい』とまで言ってくれた。記憶の中にいる私の母に少しだけ似た、柔らかい印象の人だった。
私の実家のほうは事後報告にはなってしまうものの、出産後に二人で付き合い方を考えようと景光さんに言ってもらえたので、それに甘えるつもりだ。
「……よし、」
これで掃除は終わり。洗濯機が回り終わるまでは休憩時間だ。
お腹に気をつけながらゆっくりとソファーに腰を下ろし、スマホのカレンダーを開く。今日の日付のところに、赤い文字で『予定日』と書かれているのが見えて、思わずお腹を撫でながら溜息を零した。
「いつ会えるんだろうね……」
予定日はずれるもの、とあの産婦人科の先生に口を酸っぱくして言われているので、あまり気にし過ぎないようにはしているものの、流石に予定日の当日ともなると気になってしまう。
そういえば、景光さんも今朝は妙にそわそわしてたっけ。夕方に大事な会議がなかったら、休んで私の傍についているぐらいのことはしたかもしれないな、――――なんて思って、この十月十日の間に私も随分彼に気安くなったなと笑ってしまった。
そのとき、洗面所のほうから聞こえていた微かな音が止み、代わりに甲高い電子音が鳴り響く。洗濯が終わった音だ、と立ち上がろうとして、――――びしゃりと、下腹部が濡れる感覚がした。
