「……もしかして、お酒が過ぎましたか」
「ああ……情けないが、強い酒を延々と注がれてな。潰されるかと思った」
 俺がそう答えると、麻田はこちらへ一歩近付いて『帰ったほうがいい』と耳打ちめいたことをしてくる。彼女の髪からふわりと甘い香りが漂ってきて、俺は咄嗟に奥歯を噛み締めた。
 今日の俺は、どうにもおかしい。酒のせいもあるだろうが、普段は奥底へしまって機を待っている彼女への想いが、全く抑えられていないような気がする。
 麻田に連れられてホテルの部屋へと移動する間も、彼女の全てが無性に愛おしく思えてしまって、少しでも自制心を手放せばすぐにでもその身体を掻き抱いてしまいそうだった。
 こんな状態の自分とは一緒に居させないほうがいい、――――そう思っているのは確かなのに、彼女を帰すことができなかったのは、こうすることを望んでいたからかもしれない。
「え、っ……あ、あの、社長……?」
 俺の下に組み敷かれ、シーツの上に縫い留められた麻田が困惑したように俺を呼ぶ。静謐な空間に響く、彼女の掠れた声音。ぞくりと背筋が粟立って、獰猛な感情が胸の中に湧き上がってくる。
 彼女が好きだ。こんなにも女性に焦がれたのは生まれて初めてで、この感情の逃がしどころがどこなのか分からない。ずっと自分の内側で育て続けた恋は、もはや自分の手に負えるものではなくなっていて、ただ『彼女が欲しい』ということ以外、考えられなくなっていく。
「……ん?」
「あの、その……は、放していただきたいのですが……」
「だめだ」