「ん……」
 瞼の裏に日差しが刺さり、誘われるようにしてゆっくりと意識が浮上する。ほんのりと気怠い身体が億劫なのはいつも通り。私はなかなか眠気の膜から抜け出せず、心地よいシーツの感触を堪能しながら微睡みの中を揺蕩った。
 そうしてしばらく夢と現の境目でふらふらしていると、不意にしっかりとした足音が近付いてきて、布団にくるまったままの私の肩を軽く揺さぶる。
「……紗世」
「んん、」
「紗世、起きてくれ」
 なあに、まだ眠いのに。
 ふわふわとした口調でそんなような言葉を返せば、堪え切れなかったかのような忍び笑いが頭上から降ってくる。
「可愛くて起こすのが大変忍びないんだが……もう朝なんだ。起きて」
「あさ……」
「俺は会社に行かないと」
「会社……会社!?」
 意識を目覚めさせるのにはもってこいの単語に、一瞬のうちに頭が冴える。
 がばりと勢いよく起き上がると、景光さんが目の前に立っていて、腕を組んだままこちらに苦笑を向けていた。
「おはよう。……起こして悪かったな」
「い、いえ、おはようございます……!」
 私は起き上がったときと同じ勢いで頭を下げると、慌てて手櫛で髪を整える。寝顔を見られてしまっているだろうから今更な気もするけれど、少しでもましな自分を見てほしいと思うのが乙女心だ。
 朝からどきどきとうるさい心臓を宥めるように深呼吸をして、枕元に置いてあったスマホを確認する。ディスプレイに表示された時刻は七時二十分、――――さっと顔から血の気が引くのが分かった。