【短】「だった」

「えぇぇ、それバレる?……いやぁ、わかるんだけどさ。式場にジョッキが似つかわしくないってことくらい」

 ゴク、ゴク、ゴク。

 再び、華奢な体の中へ吸い込まれていく麦酒。ジョッキに移った薄紅色が、少し生々しい。

「あれグラグラ揺れて、ビールのくせにすごく飲みにくかったの。かといって、私ワインは相性悪いからさ」

「他にもあったろ、カクテルとか」

「あぁ、でも私苦手なんだよね。甘いお酒」

 ……そうだったか?

 僕は眉を顰めた。

 たったその一言に、空白の時間の彼女が垣間見えるようで、気に入らなかったからだ。

 学生時代はよく飲んでいたカルーアも、今は飲めなくなってしまったのか。この四年の内に僕は、その共通項さえ失ってしまったのか、と。

「そりゃあ変わるよな……美月(みつき)も俺も」

「……何?彼女でもできた?」

「社畜なのに、できるかよ」

 プクク、と笑う様は決して嘲笑ではなく、むしろ安堵を含んでいるようにも見えた。

 いや……さすがに、自意識過剰だろうか。

 僕も一緒になって笑みを零す。ほんの少しのミラーリングが、心地よかった。

「ねぇ」

「ん?」

「私たちがああなる可能性って、あったと思う?」

 瞳の色を変えて放つ彼女。急転換はやはりご健在だ。