蓮は、あからさまに大きな息を吐いた。

「なんだよー。この時代にあんな子、天然記念物じゃないかって思ったんだよ」
「だからなんだっていうんだよ。別にどうだっていいだろ。本人がいいって思ってんだろ」
「そうだけどさー。ああいう子が彼氏とかできたら変わるのかなって。案外、そういう子に限ってちゃんとすると化けるかも」
「へぇ」
「そんなことより、次の合コンも頼むぜ!お前がくるって聞くと途端、女子の数増えるんだから」
「いかねぇよ、めんどくさい」

この時の会話を思い出すのは数週間が経過してからだった。
ちょうど学生が図書室とは別に勉強したり飲食の可能なカフェテリアスペースというものが大学には存在する。そこでコーヒーを飲みながら勉強をしていると、明らかに浮いた彼女が柊の二つ前の席に座った。

「…あ、」

思わず声が漏れていた。と、同時に蓮との会話が蘇る。
彼女は、確かにこの大学では浮いていた。きっちり眉上で切られた前髪は年齢よりも幼い印象を与えたし、適当に束ねられた髪は特段の手入れもされていないようだった。
服装も、グレーのパーカーに黒いパンツ姿で大きすぎるリュックを背負っていた。
(…変わってるな)

彼女は誰の目を気にすることなく、大きすぎるリュックから教科書類を出して勉強を始めた。