「ほら、色っぽいだろ。ちゃんと見ておけよ」
「や、や…めてください…」
「気持ちよさそうな顔してるくせに、よく言うよ」
「…気持ちよくなんかないっ…」

じんわりと体の芯が熱くなるが、それを柊に言えるわけなどない。
無骨な指が、琴葉の首から徐々に降りていく。
指先が琴葉の胸元を撫でる。鏡に映る自分は柊の言う通り女の顔をしていたし、妖艶に映っていた。
“彼”に触れられるたび、琴葉の体はいやらしく反応し、それを柊が満足そうに見下ろす。

「わかったか、お前はちゃんと女の顔が出来るんだよ」
「わかった、から…やめて、」

これ以上されたらどうにかなってしまう、そう確信した琴葉は懇願するように言った。
すると柊は琴葉から手を離し、「じゃあ、俺はリビングで待ってる」と言ってその場を離れた。
床に座り込んだ琴葉は浅くなっている呼吸を整えるように胸に手を当てる。
心臓は彼の存在を証明するようにバクバクと大きな音を立てていた。

「…不破、柊…」

何度考えても彼は琴葉の過去には存在しない。それなのに彼は琴葉を知っていた。
もう一度何とか立ち上がって鏡を見た。
そこにいるのは、やはり以前の自分ではなかった。