ピピ、と枕元のアラームが鳴りそれをまだ瞼が開いていない中、手探りで探して止める。
今日から新しい部署で仕事をすることになっているから普段よりも三十分早めにアラームをセットしたが、身支度にそれほど時間がかからないからもう少し寝ようかと開きかけた瞼をまた閉じる。

遮光カーテンから漏れ出る陽光が今日の天気を間接的に伝えてくる。
やはり初出社は早めに行くのが筋だろう。
寝返りを打ってようやく体を起こすと朝一番から大きな息を吐いた。

「準備しないと…」

モゾモゾと重たい体をようやくベッドの上から離すと洗面台へ向かう。
藍沢琴葉は大手総合広告代理店H&Kで働く二十五歳で、今年入社三年目になる。
入社一年目の配属は約一か月の全体研修の後コーポレートの人事部だった。
琴葉の入社した広告代理店では、一年目は約八割が営業部への配属となるから琴葉は稀な例だったのかもしれない。
顔を洗って歯磨きをして基礎化粧品を適当に顔に塗り、美容室に行って手入れをすることを放棄した髪を低めの位置にポニーテールでまとめる。
洗面台の鏡に映る自分の顔を見てにっこり笑ってみるがどう見たってぎこちない。

先月、異動の辞令を貰った時は驚いたがジョブローテーションのある会社だからある程度覚悟はしていた。
しかし、その異動先がまさかの“本社営業部”だった。
青天の霹靂とはこのことだった。何故なら、営業は皆、見た目が華やかな社員しかいないからだ。
営業のほかには、企画、制作(プロモーション)が主な部署だが制作は特に専門性のある部署だから(最終的に広告を制作する部署で専門性に特化した人がいる)琴葉がコーポレート以外に配属となればおそらく企画ではないかと考えていたのだ。もしくは、経理や総務などが自分には合っていると考えていた。