“付き合う”

つまり、恋人同士になったわけだ。もう恋などしない、そう思っていたのに強引に引き寄せられ気がつくと彼の虜になっていた。彼の視界に入りたいと何度も思っていた。
それを、同じように柊も思っていたことを知り幸せでいっぱいだ。

「で、付き合ったんだ?」
「…だから、それは…まぁそうですが。周りに聞こえるといけないので、小さな声で喋ってください!」
「別にいいじゃん!同じ部署で恋人同士になっても別に違反じゃないしね?社内恋愛禁止なんて古臭い会社じゃないんだからさ。大っぴらにした方がいいよ。不破マネージャーめちゃくちゃモテるんだから牽制という意味でも周りに知らせておいたら?」
「大丈夫です」

付き合って一週間が経過した。
付き合ったといっても大して日常に変化はない。付き合う前と同じように彼の自宅か琴葉の自宅で時間を共有する。甘くてとろけそうなほど濃厚な時間を過ごしていた。
今は昔と違って出社する際に、化粧をするようになった。柊と出会ったことで自信がついたのかもしれない。

“いい女だよ”
最初に言われた時は、何を言っているのだろうと思ったが今ではその言葉が魔法のように琴葉を変えていく。
それを日々実感しながら生活をしていた。

付き合ったことを涼に話していないが(柊も話していないはずなのに)何故か彼はすぐに琴葉たちが付き合っていることに気づき茶化すように何度も確認してくる。
仕事はできるし頼りになるし社交的な彼だが、少し子供っぽいところがあるようだ。
社員証をぶら下げながら「行こうか」という彼の声に続いて立ち上がる。
涼は周りの変化に気が付きやすくアンテナを張り巡らせているのか、はたまた琴葉自身がわかりやすい性格をしているのかわからない。