何てことを言ってしまったのだろうか。
何度も柊のあの困ったような顔が浮かんできては羞恥でどうにかなりそうだった。
今日もこれから出社して柊と顔を合わせなくてはいけないことを思うと胃が痛む。
(もうこれで…終わりだよね)
好きです、そんな告白を受け面倒に思ったのだろう。だから困ったような顔をしていたのだと思った。柊のいなくなった部屋でしばらくボーっとテレビを見ていたらあっという間に時間が過ぎた。

――


出社をすると涼は13時出社だから営業一部には智恵だけがデスクに座っていた。

彼女に挨拶をすると相変わらず妖艶な微笑を浮かべて挨拶を返してくれる。
今日はお団子ヘアでうなじが更に色気を放っていた。
柊にチラッと視線を合わせて一応挨拶をした。

「おはようございます」
「おはよう」

今朝のことなど気にもしていないという態度でそれはそれで切ない。
琴葉のように唐突に好きです、と告白するような女性は多いのだろう。“慣れている”のかもしれない。
今日も眼鏡ではなく、コンタクトレンズを装用している。化粧はベースメイクだけはしてきた。
もう少しちゃんとした方が良かったかもしれないが、フルメイクをする気にはなれなかった。
資料作りや企画部や制作の人たちとのメールのやり取りで午前中は時間が過ぎていった。
あっという間にお昼休憩の時間になる。昼休憩の音楽がフロアに流れる。
柊が立ちあがってどこか外で昼食を取るようだ。
しかし、急に柊から名前を呼ばれた。

「藍沢、ちょっといいか」
「…あー、えっと…はい」

断ろうにも断る理由がなかった。席を立つとき一瞬智恵と目が合った。
含みのある笑みを浮かべる彼女にすべてを見透かされている気がして無意識に逸らしていた。
柊が「会議室へ行こう」というので、ただ彼の後をついていく。
お互い無言で同じ階の小さな会議室へ行く。
今日は誰も使用していなかったのだろう。入った瞬間、むわっと熱い空気が体に纏わりつく。
すぐにエアコンを入れて柊と向かい合うようにパイプ椅子に座る。