柊がシャワーを終え、琴葉も続くように浴室でシャワーを浴びた。
浴室から出て髪を乾かし、リビングへ行くと既に準備を終えた彼がいた。

「一度自分の家に戻るからもう行く」
「わかりました」

柊を玄関まで送ろうとバスローブ姿のままついていく。
後姿でも、十分に他とは違うオーラを感じ取ることが出来る。確かに、ここまで素敵な男性が琴葉を特別な存在と認識するわけがないのかもしれない。
しかし、柊のお陰でお洒落をするのが楽しくなっているのもまた、確かだ。
彼のお陰だ。
汚れ一つない黒い光沢を放つ革靴に足を通して琴葉の方へ振り向く彼は優しい顔をする。
その顔が好きで、どうしても自分だけに向けてほしい。

(どうしても、私だけに…―私だけが独占したい)

邪な考えを胸の奥深くに留めておきたい。それなのに、琴葉の口から出たのは
全く別の言葉だった。

「好きなんです…」
「…琴葉?」
それは、やはり隠しておくには大きすぎる巨大に膨れ上がった柊への愛の言葉だった。
泣きそうになりながら発したそれを聞いた柊は珍しく目を見開き、驚いている。そして…―
少しだけ眉尻を下げる。
それを見た瞬間、柊が困っていると悟った。

「ごめんなさい!何でもないです」
「琴葉、違う、」
「あの!行ってください!遅刻しますから!」

無理やり玄関のドアを開けて彼を追い出すと琴葉は全身を脱力させて、その場に座り込んだ。

「間違えちゃった…」
あのような顔をさせたかったわけではない。でも、どうしてもこのままの関係は嫌だった。
セフレになんかなりたくない。

―柊の目に映りたい

どうしても、彼の瞳の中に映りたい。