美幸の提案に、涼と琴葉の瞼が大きく見開かれる。
帰れる、と思ったのに二次会があるとは…。時間を確かめると、21時を過ぎていた。
涼が「わっかりましたー!じゃあ、今から店探してみますね」と言ってスマートフォンを鞄から取り出した。

「あ、そうだ。藍沢さんは…体調悪そうだったら無理しないで帰ってくださいね。二次会なので」
「…いえ!大丈夫です!」

行きたいか行きたくないか、そう問われれば確かに行きたくはない。しかし、柊と美幸が行くというのにこのまま帰るわけにはいかない。
柊が仏頂面で琴葉を見下ろし、言う。

「ダメだ、帰れ。体調が悪いのならば尚更だ」
「…っ、い、嫌です。行きます。これも仕事です」
「だから二次会は経費申請しないんだから仕事じゃない。プライベートだ」
「だから!…行きます…」
「まぁまぁ、琴葉ちゃんが帰れなくなりそうなら俺、送りますから」

琴葉の頑なに帰宅しないという選択を柊は嫌がっている様子だった。それが美幸と一緒にいたいという意思表示なのでは、と思い苦しくなる。
少し前までならば、一緒にいてご飯を食べ、抱かれて…それで幸せだったのに。
人は恋をすると、強欲になるのかもしれない。
涼が電話をした店は、近くのバーだった。
琴葉にとってそれは初だが、話を聞くと琴葉以外は皆、結構行っているようで話に入っていけないであろうことはわかっていた。