傷ひとつない不思議な本。


こんな体験もう二度とないかもしれない。意を決して開きかけた――が、それは叶わなかった。気配なんてまったく感じなかった、どこから? 



戸惑う私の背後に、ガラスの本を手にした少年。



深い瑠璃に星屑のちりばめられたローブが風とうたうように踊る。夜色の髪は、水灯りの町には存在しない色だ。淡い色や明るい色に対して、その色はあまりにも異色だった。少年の表情からは何を考えているのか、さっぱりわからない。





「……水底の下に、来るか」




それは唐突なものだった。



世界を、突き動かすような衝動。




答えは決まっている。この流れ着いた物語の行く末を、私は知りたい。




「一緒にいくよ、あなたと」