触れないで、杏里先輩!

顔を慌てて上げると、北川君がさっきの男子の手首を掴んでいた。


「坂井さんが男が苦手だって、さっき先輩が説明してただろ?明らかに坂井さんが嫌がってんの、分かるだろ」

私には強気な顔だった男子は、頭一つ分大きい北川君に怖い顔で睨まれると更に小さくなったように見えた。
北川君、背が高そうとは思ったけれど、杏里先輩よりも高いかもしれない。


「北川っ!分かった分かった!痛いから離してっ!」

男子の切迫した声が聞こえると、北川君はパッと手を離した。
離された瞬間、教室の前へと逃げていった男子。
それを確認すると北川君は私を見た。

「大丈夫?坂井さん」

「あ、ありがとうっ、助かり、ましたっ」

本当に助かった。

だって、まだ心臓は変にバクバクしているし、恐怖が引いてくれない。


「本当に大丈夫?顔、真っ青だから」

相当私の青い顔が心配になったのか、私に触れようとはしないが、背の高い北川君は腰を曲げて私の顔を覗き込む。