触れないで、杏里先輩!

一瞬見た彼は短めの黒髪で、表情も優しそうで、スポーツをしてそうなちょっと日に焼けた色黒の爽やかな男子。
確か名前は……北川君。
私とは真逆で、明るくてスポーツが万能でバスケ部のエースだと、女子達の噂を耳にしたことがある。


「北川君っ、た、確かに怖いと感じてしまうけど、はな、話してくれて、あり、ありがとうっ」

かなりしどろもどろで、目は机に向いたままだし、泳ぎまくって挙動不審になってしまったが、声を掛けてくれたことにお礼を言いたかった。

だってここで突っぱねたら、また中学時代に逆戻り。
それに自分を気に掛けてくれている人を無下にしてはいけないと思った。


「困ったことがあったら言ってね?俺も坂井さんを助けるよ」

私は机を眺めっぱなしだというのに、なんて優しい言葉を掛けてくれる人なのだろう。


「あ、あり、ありがとう、ございますっ」


杏里先輩に再会した今日、私の人生は一八〇度変わった気がする。