触れないで、杏里先輩!

「ねぇ、俺と付き合ってって話、本気で考えてよ」

それなのに私の状態に気付いていない杏里先輩が暢気にそう言いながら、私の前髪に手を伸ばしてきた。


「触らないでっ!」

私は怯えながら、その手を叩き落とした。

そこでようやく杏里先輩も私の異変に気付いてくれたようだ。
驚いた顔をして私を見ているから。
きっと異常な程、震えているから伝わったのだろう。

杏里先輩から笑顔が消えた。


「朝の時も、さっきも、身体震えてたよね?」

私はその言葉を聞くと、逃げるように目を逸らした。

気付いていたなら、何で触ったの?

「でも一緒に居た女の子とは普通に話してたよね」

きっと亜季ちゃんのことだろう。