触れないで、杏里先輩!

「受け取ってくれないと帰らないよ?」

拒否感満載の顔をしていたのだろう、杏里先輩が笑顔のまま言った。

杏里先輩から目を背けると映ったのは、レジ袋からチラリとはみ出している袋に入ったパン。
おそらくチョコクロワッサン。
ココア色をした生地とチョコが見えるから。

……美味しそう。

ごくりと喉が鳴る。
お腹も鳴りそう。

袋へと手を伸ばしているのは、早く去って欲しいし、仕方なくだから!と私は心の中で言った。

「……ありがとう、ございます」

お礼を言うのは癪だが、言わないのは人として失礼すぎるので、小さな声で伝えた。
僅かに反抗して目は見なかった。

「いえいえ、どうぞ」

すると杏里先輩がそう言いながら何故か私の横に膝を曲げてしゃがんだ。
そして私の机に両腕を乗せるとその上に顔を置いた。

近い、非常に近い。
私達の隙間は三十センチもない。