触れないで、杏里先輩!

「さっき言おうとしたのは、お姫様抱っこ初めて見た!」

かと思ったら、次は両頬を手で押さえて悶えながらクネクネし始めた。

まさか……と嫌な予感しかしない。

「美桜は杏里先輩にお姫様抱っこされて保健室まで来たのよぉ~!まさに王子様~!少女漫画の展開よぉ~!」

嘘でしょ!?

亜季ちゃんの口から聞きたくなかった言葉が出てきて、大興奮する亜季ちゃんの隣で私は頭を抱える。

「記念に写メ撮ってあげれば良かったー!」

パチンと指を鳴らして、何故か悔しがる亜季ちゃん。

「絶対要らない……」

なんて事をしてくれたんだ、あの人。

知らないところで触れられた事を聞いただけで身体が微かに震えてきた。
震えを落ち着かせるために私は両腕を抱き締めた。

そして亜季ちゃんが開けてくれた教室の扉を通ると、私に全員何か言いたそうな顔を向けた。
誰も何も言わなかったのは、次の授業の先生が既に居たから、言いたくても言えなかったが正しい。

……あの人、本当に腹立たしい程、余計な事をしてくれた。