パクパクする心臓に動揺しながら逃げるように横を見る。

「す、すいませんっ!もう無理です!」

「でも凄いよ。髪だけど俺に触れたよ。俺にもう触れるんじゃない?」

杏里先輩は感嘆の声を上げるとそう言うと、視界の端に彼の手の平が映り込んだ。

「無理ですっ!!」

動揺が収まらず、拒否をしながら、椅子から立ち上がって机まで後退りをした。

「まぁ倒れたらダメだから無理強いはしないよ」

杏里先輩は私とは正反対に落ち着いた声音で言った。

私は落ち着かない心臓の辺りの制服を手で押さえる。

私が戸惑ったのは杏里先輩にじゃない。

自分に戸惑った。

どうしてか、もっと触れたいなんて思った自分を見つけたから。