「もう変なことは言わないで下さいね!」

「分かったよ。もう一度前向いて」

苦笑いの杏里先輩。

またイチからドキドキのやり直し。


「杏里先輩って、妹さんがいたんですね」

動悸を紛らわすために話題を振った。

「引っ越してから生まれたからまだ九歳」

「そうなんですね!」

「小さい頃からねだられてやらされてたら上手くなっちゃったよ」

「成る程」

背中を向けているから、杏里先輩の顔は見えない。

朝はポニーテールだったが、違う結び方をしている。
耳の近くを触れている杏里先輩の指が、いつか本当に私に触れそうで緊張する。

「み、耳に触れそうですよ!?」

「大丈夫だよ」

動きが見えないから、余計にドキドキしてしまう。