触れないで、杏里先輩!

え、と思わず驚いて杏里先輩を見てしまった。
だっていつも無言の杏里先輩が北川君に話しかけたから。

左側からは、「へ?」と会話が飛んできたことに驚いている北川君の声。

目が合うと、杏里先輩は目を優しい形にして、心配しないでというような表情を向けてきた。

「え、そうですけど、なんで知って……」

北川君は未だに驚いたままの声。

「二年の宮下と友達だから」

杏里先輩が返す。

「宮下先輩と友達だったんですね」

北川君の声のトーンが少し上がった。

「アイツ、部活でもふざけてない?俺この前自販機で冷たい炭酸ジュース買おうとしたら、アイツが勝手にホットココア押してきてマジギレした」

杏里先輩が思い出したのか細い目をして言った。

「アハハ。宮下先輩っていつもそんなんなんすね。俺もそれ部活帰りにやられましたよ。腹立ちました」

「アイツは人の不幸を笑うタイプ」