触れないで、杏里先輩!

至近距離……想像しただけで、足が震える。
だが、誤解を解かねば!それに三千円!

私は目を瞑り、一度深呼吸すると腹を括った。
そして杏里先輩の隣の椅子の前に立ち、鼻から大きく息を吸い込み、吐き出す勢いに乗せて椅子に腰を下ろすと叫んだ。


「北川君とは鞄を挟んで座ってますから!こんな風に北川君とは座れませんからっ!」

右隣は見れない。

でも私の精一杯の勇気。

だって触れられる至近距離に男性が居る。

足がガクガク震え始めた。

杏里先輩は私を襲った男じゃない、危害は加えないから大丈夫と心の中で反芻していると、隣からクスリと笑う声が聞こえてきた気がした。

「ごめん、意地悪言った」

先程とは違い、高くなった声に誤解が解けたとホッとした。
そのお陰か、足の震えが収まってきた。

「どう?」

「だ、だい、大丈夫ですっ」

元はといえば自分でお願いしたことだから、無理とは言えなかった。